久々平清盛の記事ー殿下乗合事件
退院後数週間ー激務に追われていましたが少し出口が見えてきました。
大河ドラマもゆっくり見る時間的余裕も生まれました。というわけで久々にこの話題です。
というのも今回の松殿基房をめぐる「殿下乗合事件」
いわゆる平家物語に書いてある「平家の悪業の始まり」として揚げられている事件ですが、今回の大河ドラマの描き方はいささか私にとって意外なものでした。
というのも今回の大河ドラマの「平清盛」−基本的には歴史家の史実をベースとした吉川英治の「新平家物語」の路線で、従来アンチヒーロー、歴史の悪役のイメージのある「平清盛」を「時代の変革者」として描く、という基本コンセプトとして理解していました。
従来の「平家物語」のイメージでは「平清盛」は徹底的に悪役として描かれており、なかには「平家の悪業」とされているものには史実のない作り話もある等、文学的価値はさておいても、歴史書としてはとても信用できるものではない、というのが現在の殆どの歴史家の評価であります。
どうも「平家物語」のイメージがあまりに強すぎるせいかそういう「新説」に耳を傾けない人も多いようで、それが今回の大河ドラマの低視聴率に反映しているようですが、私はその
「新説」こそ今の日本人が学ぶべき内容ではないか、という認識を持っております。
ところが今回の「殿下乗合事件」
結果としては「平家物語」の路線で描かれていました。これは少々以外でした。
この「殿下乗合事件」の「平家物語」の記述は史実と大きく違うということは『玉葉』『愚管抄』『百錬抄』といった複数の歴史書からすでに明らかになっております。
「平家物語」と史実がどう違うかを比較しましょう
「平家物語」
嘉応2年(1170年)10月16日、参内途上の藤原(松殿)基房の車列が鷹狩の帰途にあった平重盛の次男・資盛の一行と鉢合わせをした。資盛が下馬の礼をとらないことに怒った基房の従者達が資盛を馬上から引き摺り下ろして辱めを加えた。
これを聞いた祖父の清盛は、10月21日に行われた新帝元服加冠の儀のため参内する基房の車列を300騎の兵で襲撃し、基房の随身たちを馬から引き摺り下ろして髻を切り落とし、基房の牛車の簾を引き剥がすなどの報復を行い、基房は参内できず大恥をかいた。これを聞いた重盛は騒動に参加した侍たちを勘当した他、資盛を伊勢国で謹慎させた。これを聞いた人々は平家の悪行を怒ると共に重盛を褒め称えた。
史実
、
嘉応2年(1170年)7月3日に発生し、法勝寺での法華八講への途上、藤原(松殿)基房の車列が女車と鉢合わせをした。基房の従者達がその女車の無礼を咎め、乱暴狼藉を働いた。
その車の主が資盛であることを知った藤原(松殿)基房は慌てて使者を重盛に派遣し、謝罪して実行犯の身柄の引き渡しを申し出る。激怒した重盛は謝罪と申し出を拒否して使者を追い返した。重盛を恐れた基房は、騒動に参加した従者たちを勘当し、首謀者の身柄を検非違使に引き渡すなど誠意を見せて重盛の怒りを解こうとした。
しかし、重盛は怒りを納めず兵を集めて報復の準備をする。これを知った基房は恐怖の余り邸に篭り、参内もしなくなった。しかし、帝の加冠の儀には摂政として参内しないわけには行かず、10月21日参内途上で重盛の軍兵に襲われ、前駆5名が馬から引き落とされ、4人が髻を切られたという。基房が参内できなかったため加冠の儀は延期されたとされている。ただし、24日に基房と重盛は同時に参内しており、両者間の和解が成立したようである。また、同年12月に基房が太政大臣に就任したのは清盛が謝罪の気持ちで推薦したためとも言われている。
複数の歴史書の内容がほぼ上記の「史実」に一致することと、歴史書としても『玉葉』『愚管抄』『百錬抄』は信頼性が高いことから考えて上記の史実にほぼ間違いないと思われます。
要は「平家物語」は物語の進行上、清盛を悪役、重盛を平家一門の良識派として描写する必要があったために史実をまげて創作したと思われます。この件だけでなく「平家物語」は同様の類の記述が多数あります。よほどこの作者は「平清盛」を憎んでいたようです。
この「平家物語」は鎌倉時代後期に書かれていますが、藤原摂関家に近い(もしくは藤原摂関家の関係者)が書いたのはほぼ間違いないといわれ、清盛を初め武家政権によって多くの既得権益を失ったことを憎んで「平清盛」を徹底的に悪者に仕立て上げた、という背景があるようです。
しかしそれは明らかに史実とは違います。
とはいえ、日本人というのは理屈よりイメージに流されやすいんですかねえ。何か橋下の「平成維新」に関する期待にしても、政策を理解するのではなく彼らがマスコミを通して流したイメージで流されている傾向を強く感じます。橋下の政策内容見るとはっきりいって小泉政権よりひどいというのはわかるはずなんですがね
ちょっと日本人のこの傾向には私は危機感を感じます。これで日本を滅ぼしかねないと思いますけどね。