西郷どんー幕末から明治に起きた日本史上最も劇的な変化とそれによって「捨てられた人」たちへの思い
西郷どんー今週から最終章ということで明治時代に入り西郷隆盛の長男(庶長子)の西郷菊次郎が西郷の人生について語るという形式に変わっています。この西郷菊次郎は結果として西郷の子供(5人いますが)で最も出世した人物で台北県支庁長や初代宜蘭(ぎらん)庁長を歴任後京都市長となります。台湾でも京都でもインフラ整備に辣腕を発揮した人物で非常に高い評価を得た人物です。おそらく西郷隆盛の愛用した「敬天愛人」を最も仕事の中で実践した人物として考えられたためでしょう。
さて、私はこの「西郷どん」が今年が明治維新150年周年に当たるという事もあり、日本のみならず世界でも稀といわれるこの明治維新というのは一体何なのか、について考えるよい機会だと思いました。
というのも日本の歴史を振り返っても幕末から明治ほどあらゆることがドラステイックに変化した時代は他に見当たらないと考えるからです。単に政権が平家から源氏に移ったとか、そういうレベルの変化ではないからです。
以下にリストとして江戸時代以前と明治で何が大きく変わったかについて思いつくまま羅列していこうと思います。尚、項目によっては若干時期のズレが生じたり等、わりとざっくりした部分もありますがご了承ください
・政治、行政制度の明治における変化
江戸時代 | 明治以降 | |
政権 | 徳川氏を頂点とする幕藩制度 | 初期は薩長を中心とする藩閥から明治憲法制定後は天皇を中心とする立憲君主制 |
政治制度 | 幕藩制度による封建体制 | 立憲君主から明治憲法制定後は議会制 |
統治者、地方自治 | 封建領主、名主等の世襲制 | 初期は明治政府の指名だが、そののち選挙による選出 |
政治行政の体制 | 藩を単位とする封建制度(実質連邦制) | 版籍奉還、廃藩置県による46都道府県体制。 中央集権化 |
統治の内容 | 封建領主による裁量 | 法治国家 |
官位制度 | 律令制による官位制度 | 初期は太政官制度、叙位条件制度に移行 |
身分制度、庶民 | 士農工商による身分制度(但し最近の研究では武士階級を買う等割と緩かったこともわかっている) | 華族を除けば原則4民平等 |
職業 | 身分制度による原則固定(農民は農民、商人は商人等) | 職業選択は自由 |
武士の身分 | 浪人でない限り幕府もしくは領主の支給する禄 | 武士階級の実質全員解雇(※注1)帯刀、仇討の廃止 |
経済制度 | 石高制 | 貨幣経済(円を単位とする) |
(※注1)廃藩置県、版籍奉還により各藩の藩士は事実上「全員解雇」と同じ状態になり、さらに金禄公債証書発行条例(従来の武士の禄高を債権に変えて何年越しで償還する、しかし一辺に支払うのは無理なので何年かに分けて支払うというもの)が最終的な西南戦争の引き金になったと考えます
政治、行政の面でこれだけドラステイックに変われば当然、その変化によって「捨てられる人たち」「変化についていけなくなる人たち」も大勢出てくるわけで、上記の表でわかるのはその「捨てられた人たち」の大半は既得権益を持っていた武士たちだったのです。
武士の魂の刀を取り上げられ、給料も取り上げられた状況、そりゃ反乱が起きるのも無理はない、ということで1876年に熊本県で「神風連の乱」、27日に福岡県で「秋月の乱」、28日に山口県で「萩の乱」と立て続けに起きるわけです。
西南戦争はその関係でいえば起きるべくして起きた反乱ということになります。ここの部分を今後西郷どんでどのように描かれるか興味がありますが、おそらく既得権益を失った武士たちの思いを理解した上で負けることを百も承知で乱の中に自らを委ねた、というのがたぶん実態ではないかと思います。あくまで「弱者からの眼差し」を失わなかった人間として..
不平士族の憎しみ、悲しみを自分が一手に引き受け人柱になる、それが西郷の意図だったように思います。
「明治維新は革命というしかない」、と言っていたのは司馬遼太郎でした。しかしその革命は幕末から明治の初期にかけての莫大な犠牲の上で成り立ってきたということは忘れてはならないと思います。
さらに明治時代に入って現代の我々の生活の基礎となるあらゆるものが明治で導入されていたことを記しておきましょう。先ほどと同じ表にします。
髪型 | 男性は髷、女性は日本髪 | ザンギリ頭、西洋風のヘアスタイル |
服装 | 和服 | 洋服と和服が混在 |
イノベーション | 徒歩、駕籠、馬 | 鉄道、電信、明治末期には自動車も出現 |
武器/strong> | 刀、槍、火縄銃 | 軍艦、新式の大砲、銃 |
食文化 | 米を主食とする和食 | 洋食、海外の料理の影響を受けたメニュー出現 (※注2) |
(※注2)現在我々が「国民食」と位置付けているカレーライスやラーメンを始め、いわゆる日本的な「洋食」といわれるハヤシライス、とんかつ、ポークジンジャーといった料理は全て明治に生まれている。
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明治維新の影には多大な犠牲、そしてその変革に乗り遅れ捨てられてしまった人たちがいます。その人たちの存在を忘れてはならないと思います。
しかしその「革命」といわれる明治維新ができたからこそ今の日本があったということ、そしてこれだけのドラステイックな変化を現代の我々が果たして成し遂げられるかというと、やはり難しいといわざるを得ないと思います。明治維新を成し遂げた大久保、西郷、木戸だけでなくその周囲の多くの偉人たちの功績にはやはり敬意を表さざるを得ないと考えます