KyojiOhnoのブログ

作曲家、編曲家、ピアニストそして製作会社の経営者ですが、ここでは音楽以外の社会一般のことの雑感について書きます。

2012年日野法人会新年講演ー伊藤元重氏

昨年は参加できなかったんですが、今年は地元日野法人会の新年恒例の新年賀詞会兼講演会に行ってきました。

今回は東大の経済学部教授伊藤元重氏が講師なんですが..

実は今回時間があったので聞きにいったんですが、正直言って講演を聞きにいこうかどうか迷ってました。まあ私のブログは結構日野法人の関係者も読んでいたりするので、あまり辛辣のことは書きたくないんですが...

前にも書いたかもしれませんが、実は私は経済学者、エコノミストという人たちを基本的に信用していません。特に新自由主義市場原理主義的な基本理念を持つエコノミストなどは大嫌いです。それには理由があります。

というのも経済学者という人たちは基本的にデータ分析ーつまり机の上、パソコン上の作業が多く得てして「紙の上」のデータでしか論じない人が非常に多いのです。極端ないいかたをすれば経済学者から見れば「失業率」「貧困」も単なるデーター数字に過ぎず、市場原理主義的な概念からすれば「本来市場にまかせておけば失業者など発生するはずなどない」ので極端に言えば失業者や貧困者は市場原理主義者にとって悪でしかない、というのが彼らの論法です。要するに彼らは数字、データは見ても「人間」をきちんと見ていない気がして仕方ないんですね。

勿論全ての経済学者が新自由主義市場原理主義とは限りませんが、アメリカ経済学が主流になっている日本の経済学界では、新自由主義市場原理主義が多数派であるということも残念ながら事実です。しかし先日私が当ブログでレビューしました2001年ノーベル賞経済学者を受賞しクリントン政権で経済諮問委員として活躍したジョセフ・E・スティグリッツの著書ー世界を不幸にしたグローバリズムの正体(徳間書店)http://d.hatena.ne.jp/KyojiOhno/20111228にてIMFアメリカの財務省を支配している新自由主義市場原理主義的政策がいかに世界をおかしな方向に向わせているかという実態が暴かれています。しかも数多くの失敗例があるにもかかわらずIMFアメリカの財務省が決して自らの失敗を認めようとしない実態などを読みますと新自由主義市場原理主義に対する不信感を持たずにはいられないのです。

しかしそれでもあえて今日聞きに行きましたのはこの伊藤元重氏が机やデスクトップのみでしか「数字」や「データ」を分析しないアームチェアエコノミストではないー自分の足で現場を見て考えるエコノミストーという話なので、それならちょっと話を聞いてみようという気にはなりました。

まあユーロ崩壊の危機や世界経済の様々な状態を見ても正直素人でも明るい情報などない、というのはわかりますが、その中でも中小企業に対して参考になる内容のことやいろいろ聞くべき内容のことも書いていましたので簡単にまとめておきます。

とはいえ、話を聞いていてこの伊藤元重氏は市場原理主義とまでは行かないかもしれませんが、基本的には新自由主義者であることは文脈で何となくわかりました。(文脈からグローバル企業を礼賛する表現が見て取れました)そして果たせるかなTPPには賛成の立場を取っています。ちなみに日野法人会の大木会長は賀詞会にて明言こそしていませんが、TPPには反対、もしくは慎重な立場であると推察します。また私はこのブログで既にTPPについての反対意見を何回も述べていますのでここではその辺りのことは割愛します。

前置きが長くなってしまいましたが、一方では確かに自分の足で現場やその他の情報を得ているだけあって、かなり具体的でわかりやすい話もありました。

講演はまず世界情勢全般の状態から始まり、危機的なヨーロッパの現状、アメリカの景気後退、そしてここ十年以上もデフレの状態から脱却できないでいる日本の実情や中国のバブルがそろそろはじけるのでは、という話から始まり、そしてそれらの影響から今年辺りから日本でもデフレとは逆の兆候が既に多数見受けられることを指摘しています。この辺りはどうなのか何ともわかりません、まあ伊藤氏には悪いですがエコノミストの予想がはずれるのは珍しいことではないので、ここは鵜呑みにはしないようにしましょう。

ただ新自由主義には反対である私も同意せざるを得ないのは現代の日本が何十年に一度の「大きな変化の時代」に差し掛かっているという点でしょう。そしてその時代に中小企業はどう立ち向かっていけばいいのか、という点に見るべき論点もありました。

特に伊藤氏はスマイル曲線というものから産業のありかたを論じていました。おそらくこんな感じのグラフと思われますが、縦軸はおそらく収益というのは何となくわかりますが、横軸が何なのか今ひとつわかりません。まあ事業規模もしくはそれに類する因数かと思われますが、伊藤元重氏の大学講義を聞いたわけではないのでご存じの方はご教示いただければ幸いです。

ここで伊藤氏が「上流」といっている右端は主に「グローバル企業」を指すと同時にSジョブスのAppleのように独自のノウハウーOnly oneのノウハウを持っている企業を指しています。但し日本の中小企業でもOnly oneのノウハウを持っていればこの「グローバル企業」の仲間入りは充分可能で、伊藤氏は「絶対に取れないナット」を作ったハードロック工業や日本の「公文」の例も揚げています。

ちなみに伊藤氏が他の新自由主義的ーグローバル志向エコノミストと一線を画すとすれば日本のモノ作りの中小企業でOnly oneのノウハウを持っていることに着目し,よく理解している点かもしれません。多くのグローバル派エコノミストモノ作りやコンテンツ制作「旧態依然の産業」と決め付け、見下す傾向が少なくありません。

そして問題は中間部分の低いところーこれは伊藤氏の言葉では「成熟した産業」といういいかたになりますが、要はこれが多くのグローバル派エコノミストが見下している産業層に当たるわけで、実は残念ながら大半の中小企業はこの層の中に入ります。伊藤氏はこれも全然駄目というわけではない、としながらも要は「業界が低迷している中で撤退する企業が増えるのを待ちなさい」ということです。もっときつい言い方をすれば自分の同業種の人たちがどんどん死ぬのを待ってなさいーといっているわけでさすがエコノミスト「人間」を見ずに数字、データしか見ていないな、という風に私などは感じてしまいます。結局「残忍」でないとエコノミストになれない、ということでしょうか?(笑)

ちなみに左側の「下流」は「もっともお客さんに近い」業種で「独自のビジネスモデル」を作っている業種でユニクロなどを例に揚げていました。

またこれは確かにその通りだと思いましたのは伊藤氏は昨年の震災や原発事故の影響から今後日本国内に大きな2つの需要が起きることに触れています。

1。電力需要
伊藤氏は政府に非常に近い位置にいる方なので、日本はこれから脱原発の方向に行かざるを得ないー電力供給が逼迫することから、政府は従来の縦型の電力供給体系から分散型に切り替えざるを得なくなる点を指摘。今後太陽光発電、家電は電力需要と蓄電までコントロールする「スマート家電」の需要が伸び新たなマーケットが発生する可能性大であると論じています。。

2。安全、安心

かつてスウエーデン、ドイツがチェルノブイリ原発の事故をきっかけに食の安全、有機農業等がさかんになったように同じことが日本でも起きる可能性が大。そこにあらたなビジネスチャンスが起きる可能性を指摘しました。

その二点に関しましては同意します。しかし最後のビジネスに勝つ秘訣と題して3点を伊藤氏は揚げましたが。

1.がんばること
2.相手をつぶすこと
3.人のやらないことをやること

まあここまでロコツにいわなくとも、とも思いましたけどね、3の人のやらないことをやることはその通りですけど、2の内容はちょっとロコツですねー(苦笑)

しかし締めくくりの言葉で
「日本の政治は本当にひどい、まあこれ以上は悪くならないでしょう」

まあこれは異論がある人は殆どいないと思います。(笑)

エコノミストという人種の本質が時々見ることができましたが、一方では参考になる内容の話出ましたので聞いてよかったとは思います。

しかし今年のこの状況、変化の荒波は想像以上に大きいと考えた方がいいでしょうね。私も腹をくくろうと思っています。



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